漂流者は宝箱をも掴む
私は子供の頃は大のアニメファン。
成長してからもその気持ちは変わらず。
まったく絵が描けないのに、
ついにはアニメの専門学校に通い出す始末でした。
課程は2年間で半年で卒業制作。
個人で短編フィルムを作るのです。
何を作ろうかと考えた私ですが、
とっかかりになるものがありません。
当時、研修生募集の試験に出していた
絵コンテ課題を借りることにしました。
無人島に漂着した男が
ぼうっと海を眺めていると、
宝箱が流されてきます——
冒頭はこれだけ。
で、ここから先の展開を
各々が考えるというものです。
それで私は男が宝箱を取り、
そのなかを開けるとあるハプニングが起こる、
という展開を考えました。
そして、それを先生に話すと、
「どうしてその主人公は
そんなものに興味を持つの?
宝箱に入っているのは宝物に決まっている。
そんなものは漂流生活では役に立たないから、
取ろうとはしないと思うよ」
と言われたのです。
私は、
頭のなかが下の画像のようになってしまいました。
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漂流生活だからこそ、
それが何であれ必要とするのでは?
そもそも宝箱だからといって、
なかに宝物が入っているとは限りません。
だれかが中身を取って、
別のものに入れ替えているかもしれない。
それが漂流生活で役に立つかどうかは、
開けてみなければわかりません。
仮に金銀財宝が入っていたとしても、
無人島を脱出した後、
持ち帰れることができれば役に立ちます。
もちろん中身が空っぽのケースもあるでしょう。
でもその場合でも、
箱そのものは役に立つかもしれません。
食料を鳥や動物に奪われないように保存したり、
あるいは椅子として役立たせることができるかもしれない。
ふつう漂流者は、
〝溺れる者は藁をも掴む〟
状態になっています。
だから流れてきたものには、
ぜったいに手を伸ばすのです。
もちろん嵐で海が荒れているとか、
鮫がうようよしているなど危険なとき以外は——
以上のような理由から、
先生の指摘は一見鋭いようですが、
じつは発想が貧しいのではないかと思いました。
私は、この先生がもし無人島に漂着したら、
流れてきたものが何であっても、
絶対に手を伸ばすと断言します。
それにはかなりの自信があります。
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