terra〜物語のガードナー

物語を紡ぎ出すことに人生を費やしているインディーズ作家・多部良蘭沙が、日常で感じたことを綴るブログです。どうぞ、よろしく!

身内の恥

若いころ、私はよく海外に出かけいました。

そのいちばんの収穫は、

価値観や生活習慣の違いを

肌で感じることができることだと思いです。

 

そのひとつにこんな体験があります。

20年ほど前にスイスを旅行したときのことです。

 

[http://Embed from Getty Images :embed:cite]

 

アルプスの山麓に、

日本人の旦那さんを持つ女性が

経営しているホテルがあります。

その旦那さんがユニークな方だったことから、

私はたびたびそのホテルに泊まっていました。

 

その旦那さんとの会話は楽しく、

勉強になることが多かったのですが、

私をより気に入ってくれたのは奥さんの方でした。

年は50代くらいでしたが、

とてもそうとは思えないほど美しい方でした。

 

しかし何度目かに宿泊したとき、

ちょっとしたカルチャー・ショックを体験しました。

 

ある夜、私がホテルのロビーでくつろいでいると、

中年の現地人男性が現れたのです。

彼はすこし酔ったようにふらつき、

言葉もすこしまごついていたのですが、

さほどおかしなふうには見えない。

話してみると、

彼は奥さんの弟さんらしいということがわかりました。

 

翌朝、朝食を終えてからロビーに行くと、

きのう見た弟さんがソファーに座っています。

私はあいさつをしたのですが返事がありません。

何か寝ぼけているような感じで様子が変です。

するとそこへ奥さんがやってきて、

私にこう言いました。

 

「じつは、彼は麻薬中毒なの。

これはわが家で、とても大きな問題になっているのよ」

 

私は驚きました。

しかしそれは生まれて初めて麻薬中毒者を

間近で見たからではありません。

身内の恥を、

他人である私に打ち明けたことでした。

 

薬物規制のゆるいお国柄であることを考えると、

なにも彼のような中毒患者は、

めずらしくないのかもしれません。

ですが、もしここが日本であったなら、

身内に麻薬中毒患者がいることを

宿泊客に明かすことは

ぜったいにないと思うのです。

 

カルチャーショックとしては

ささやかな部類かもしれません。

が、要はこれをブログで読んで知るのと

実際に体験するのとでは違う、

ということです。